ARTIST INTERVIEW

MAS NAGOYAとは

地域の歴史や文化をアートに昇華させ、準備段階から当日のパレードまで地域の皆で作り上げる、参加型のアートプロジェクト、Mas Nagoya(マス ナゴヤ)。
パレードの衣装作りワークショップのことを「マスキャンプ」と呼び、この製作過程を大切にします。

Mas Nagoya代表の現代美術アーティスト、マーロン・グリフィスにMAS NAGOYA実行委員会の西山委員がインタビューしました。

ーマーロンさんご自身も故郷トリニダード・トバゴでマスキャンプに参加していたのですね。

マーロン「子供の頃から参加していましたが、自分が作るとは思っていませんでした。マスキャンプで働くことは、プランにはありませんでした。
自分より前の世代は、大学でアートを学ぶのが一般的でしたが、自分は美術大学へ行っていません。
ただ、自分がアーティストになりたいという気持ちはありました。」

ー日本とトリニダード・トバゴで違いはありますか?

マーロン「同じトリニダード・トバゴでも、それぞれ地域色があり、それぞれの伝統文化があります。
うるさいマスキャンプもあれば、子どもが走り回っているようなマスキャンプもあります。昔とは製作工程が異なる現代的なものもあります。
現在はビキニのような衣装も増えてきました。昔はマスキャンプで衣装を作っていましたが、現在はメイド・イン・トリニダード・トバゴではないものもあります。8000人が参加するバンドのパレードがありましたが、その一部はメイド・イン・チャイナでした。ビジネス要素のあるマスキャンプが増えてきて、伝統的なマスキャンプが少なくなってきていることが残念です。」

(トリニダードでのマスキャンプの様子)

マーロンさんが実現しようとしているものは、芸術性の高い、伝統的なマスキャンプです。

現在のマーロンさんの活動は、社会貢献の要素が大きく、公共性の高いものだと感じます。


アーティストとは、アートを用いて自己表現するものだというイメージする方もいるかもしれませんが、アーティストになりたかったというマーロンさんが、どのような経緯で現在の形になったのでしょうか。

ーアーティストになりたかったのは、自分のことを表現するためではないのですか?もともと社会を良くするためにアーティストになりたかったのですか?

マーロン「それは、偶発的に起こったことです。それがスタートではありません。」

「偶発的に」何かに導かれるように、自然に社会とつながるアートの形になっていったようです。それは、マーロンさんの柔軟性や、人を尊重する心が現在のような形へと導いたのではないでしょうか。

マスキャンプは、誰でも自由に参加できる場です。
世代も考え方もそれぞれ違う多様な人々が出会い、交流することとなります。

(ロンドンでのマスキャンプの様子)

みんなで作る場合、やってほしいことが伝わらなかったり、思い通りにいかないこともあるのではないでしょうか。

ー思い通りにいかないとき、マーロンさんにとってストレスではないのですか?

マーロン 「最初は完璧な形にしようとしたけれど、南アフリカのプロジェクトの際に、『あなたがやるべきことは、必ずしも完璧である必要はない』と学びました。多くの人は『成功=パーフェクト』だと思っていますが、年配のアーティストと、何がパーフェクトなのかについて話したことがあります。

『不完全であること』が作品を唯一無二のものにする。
不完全であるからこそ、学びがあり、成長することができる。

どんな職業の人でも、やればやるほど学びがあると思います。
私の場合、マスキャンプが好きで来てくれる人がいて、ベストを尽くそうとしてくれます。
そのことが、私のやりたいことと違った場合もありますが、やってくれた人は100パーセントでやってくれて、その人にとってはとても楽しい時間です。その様子を見ると、グッドフィーリングになります。その人にとっては、特別な瞬間です。」

自分の理想を押し付けない姿勢は、とても柔軟な考え方の持ち主であり、心の広さを感じました。ルールに縛られることに慣れている日本人にとって、新鮮な場所
ではないでしょうか。否定されることのない安心できる居場所になるのではないでしょうか。

そして、マーロンさんは言います。
「もし、自分のやりたいことと違うことをする人がいれば、その時は違うパートを提案すればいい」と。

マーロンさんが経験してきたマスキャンプに、毎年来るけれどコスチュームは作らない女性がいました。その女性は、マスクを作らないけれど、料理はプライドをもって作ってくれたそうです。他にも、ロンドンで出会った親子のエピソードもあります。その方は、保育が得意で、子連れでマスキャンプに来て、他の子どもたちの面倒を見てくれたそうです。

マスキャンプは、その人にとって得意なことを発揮できる場です。みんなにとっての居場所になります。
単に衣装を製作するためだけの場所ではありません。

「トリニダード・トバゴのMasは、カーニバルだけではなく、スティールパンのコンテストがあったり、パンヤードと呼ばれる憩いの場があったりします。
パンヤードとは、自給自足の象徴でもあり、人々は木の周りに集います。
ブレッドフルーツという木があり、誰でもそのフルーツを食べることができます。(ブレッドフルーツとは、熱帯地方で主食とされている「パンノキ」という植物の果実です。加熱調理するとパンのような食感になり、味はジャガイモに似ています。)

ブレッドフルーツは、フライやスチーム調理をして食べます。一年中実を採ることができ、いつでも誰でも食べていいのです。

マスキャンプもパンヤードもゲートは無く、いつでも開いています。」

カーニバルが生まれる街、トリニダード・トバゴのポート・オブ・スペイン

「自分は幸運だったと思います。」
マーロンさんがいたマスキャンプは、いろんな人がいて、さまざまな技術を持っている人たちがいました。マーロンさんに知識を共有してくれる人たちがいました。

トリニダード・トバゴのマスキャンプのようすをお聞きし、マーロンさんの柔軟でおだやかな性格はお国柄もあるのではないだろうか、と聞いてみましたが、
マーロンさんいわく「自分は自分です。」とのことでした。
同じ日本人でもさまざまな性格の人がいるように、トリニダード・トバゴでもそれは同じかもしれません。
ただ、強いて言うなら、日本にいて『即興性』が恋しいそうです。日本はルールのもとに厳格に動いているように感じるそうです。

しかし、「日本でトリニダード・トバゴの再現をしたいわけではありません。」とマーロンさんは言います。

「マスキャンプというツールを使いながら、鶴舞のマスキャンプを作るのです。」

2025年のテーマは鶴舞の未来です。
マスキャンプは誰でも参加可能なみんなの居場所です。いろんなアイデアを試すことのできる場です。
不器用だから。自信がないから。いろいろな不安があるかもしれませんが、まずは気軽にマスキャンプに来てみてほしいです。
新たな出会いがあるかもしれません。
何かのヒントが見つかるかもしれません。

完成形はひとつではありません。
正解はひとつではありません。
『不完全であること』が作品を唯一無二のものにします。
そこに学びがあります。

この「理解」と「体験」を未来を担う子供たちにもぜひ味わってほしいと思います。

鶴舞の物語は、皆で作り上げます。
未来を生きる人たちにとって、「学び」と「成長」の場となることでしょう。

インタビュアー  西山淳子
鶴舞出身。20代半ばまで鶴舞で過ごす。同級生に誘われたのをきっかけに、第一回のパレードから参加。アートが人を結びつけることに魅力を感じ、2025年は実行委員としてプロジェクトに参加。